灯火古典文庫

訳者まえがき

各巻の巻頭に収めている文章です。作品ごとの数行のほかは、どの本も同じです。

何百年越しの、話をしよう。

「この本は、私のために書かれたものだ」と感じたことはありますか。

私は本が好きで、いわゆる古典も、気になるものから少しずつ読んできました。けれど、訳が古くて途中で挫折したり、そもそも手に入らなかったりする本も少なくありません。

そのたびに、最高の読書体験を逃してしまったかもと、歯がゆい思いをしていました。

そんな中、AIを使うようになって、そうした本を自分でも少しずつ訳せるようになったことに気づきました。

もちろん、AIに任せればそのまま本になるわけではありません。下書きを原文と突き合わせ、訳語をそろえ、読みにくいところに手を入れる。その積み重ねが必要です。

それでも、これまで読むことしかできなかった古典に、自分の手でもう一度触れられる。新しい言葉として、古典が語り掛けてくる。それは単純に、うれしいことでした。

この文庫が目指すのは、私自身が読みたいと思える、いま普通に読める日本語です。言葉を選び直し、文を組み替えながら、中身は削らずに、原著の熱量まで伝わるように訳しています。

古典だからと身構えず、軽い気持ちでページをめくってみてください。

何百年も前に書かれた言葉が、案外いまの自分のすぐそばにある。そんな瞬間を、一緒に楽しんでもらえたら。

何百年越しの、話をしよう。

保科 隆明
灯火古典文庫